鍼灸院で服の上から鍼をされたけど、大丈夫?
今回は「他の鍼灸院で鍼を受けた際に、衣服の上から鍼を打たれたけど、それは良いのか?」というご質問にお答えします。

他の鍼灸院で鍼を受けたときに、衣服の上から鍼を打たれました。
それは大丈夫なのでしょうか?
衣服の上から鍼を打つことは、衛生面・安全面の観点から適切とは言えません。
鍼をする箇所は消毒しないといけません。そのため、衣服の上からの皮下への鍼施術は推奨されません。
衣服の上から鍼を打ってはいけない理由
1.鍼がクリーンな状態を保てない
現在、鍼治療に用いられる鍼のほとんどはディスポーザブル(使い捨て)で、感染症などの心配はありません。
ディスポーザブルの鍼は無菌状態で個包装にパックされており、施術直前に取り出します。
感染経路を最小限に抑えるという観点から、衣服を貫通してから皮膚に鍼が刺入されることは無菌性を著しく損なう行為であるため、当然推奨されません。
2.施術する部位の消毒ができない
衣服の上から鍼を打っている場合には、そもそも施術する箇所の消毒が行われていないかと思います。
鍼を打つ箇所は感染予防のために、消毒をしなければなりません。
なぜ衣服の上から鍼を打つ施術者がいるのか?
推測にはなりますが、大きく2つの理由が考えられます。
1. 露出が難しい部位に鍼をするため
お尻や太ももなど、肌を出すことに抵抗を感じやすい部位に対して、無理に脱がせずに対応しようとした可能性があります。
患者さんの恥ずかしさや不安に配慮した結果ではあるのですが、衛生面や効果の観点からは良い対応とは言えません。
2. 衣服がタイトで肌が出せなかったため
スポーツウェアや補正下着、タイトなインナーなどを着ていると、下着や服をめくっても皮膚がうまく出せないことがあります。無理に脱がせるわけにもいかず、結果的に服の上から刺すという判断になった可能性も考えられます。
とはいえ、いずれのケースでも本来は「ゆとりある服装で来てもらうこと」や「鍼治療専用の患者着の使用」など、事前の対応が望ましいです。
衣服の上から鍼をするメリットはない
1. 衛生面の問題
最も大きな問題は、感染予防ができていない点です。衣服は一見きれいに見えても、目に見えない細菌やウイルス、ホコリなどが付着しており、それらが鍼に付着することで体内に侵入する可能性があります。
鍼は皮膚を貫通して体内に入るため、衣服を貫通させて鍼を打つことは、清潔操作の基本原則に反しており、感染症を引き起こす大きな要因になりえます。
2. 鍼施術を効果的に行えない
ツボが取りづらい
ツボ(経穴)は、皮膚の上に正確に位置づけられており、わずかな位置の違いが治療効果に大きく影響します。衣服があると、解剖学的なランドマーク(骨や筋肉の位置)を正確に触診できず、ツボを外してしまう可能性も高まります。
そのため、施術する箇所は皮膚表面上を直接触知できるほうが施術の効果を高めるため、衣服の上からの施術は好ましくありません。
刺した後の鍼に干渉する
鍼は「ツボに正確に刺す」「深さや角度を調整する」など、細やかな手技によって効果が最大化されます。
体動により衣服が動くことによって刺入の深さや方向が変わってしまったり、鍼への干渉が避けられません。意図した治療効果が得られなくなる可能性もあります。
衣服の上からできる鍼もある?
鍉鍼(ていしん)やローラー鍼といって、皮下に刺さないタイプの鍼も存在します。
これらは皮下に刺入しないタイプの鍼なので、衣服の上からでも施術することが可能です。
しかし、鍉鍼もローラー鍼も一般的には皮膚に直接触れて施術することがほとんどです。
まとめ
- 衣服の上から鍼を打つことは、衛生面・安全面の観点から適切ではありません。
- 鍼を打つ部位は皮膚の消毒が必要です。衣服を貫通した鍼は清潔ではなく、感染リスクが高まります。
- より効果的に鍼治療を行うためにも、皮膚に直接触れられる状態が必要です。
鍼治療は、正しい手順で行えばとても安全で効果の高い施術です。
衣服の上から鍼を行う施術者が極稀にいるようですが、ほとんどの鍼灸師はそのような方法は行いません。
安心して治療を受けていただけるよう、当院でも常に衛生と安全を大切にしています。ご不明な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。